多くの製造業では、材料費・労務費・経費の正確な把握ができず、どの製品が本当に利益を生んでいるのか見えない状況が続いています。競合他社との価格競争に勝つためには、正確なコスト構造の把握と継続的な改善が重要です。

当記事では、製造業の原価管理について、基礎知識から実践的な改善方法まで、具体的な事例とともに解説します。適切な原価管理により、無駄の削減と利益向上を目指しましょう。

製造業の原価管理とは？｜製造にかかる原価を把握し、適正に保つ取り組み

原価管理とは、製品を作るために必要な費用（原価）を把握し、適正に保つ取り組みです。材料費や労務費を調整することで利益率を改善し、企業の収益性向上につながります。

製造業における原価管理では、標準原価と実際原価との差異を分析し、無駄を減らしながら継続的に改善する手法が用いられます。これはPDCAサイクル（Plan-Do-Check-Act）と呼ばれ、原価の設定・分析・改善というプロセスを繰り返すことで、利益の最大化を実現します。

製造業の原価管理の目的｜ムダの排除と利益の向上

製造業における原価管理の主な目的は、製造時のムダを排除して利益を向上させることです。原価を正確に把握することで、効率化とコスト削減を実現できます。

主に、以下の2つの主要な目的があります。

• 財務会計目的
  製品原価を明らかにし、損益計算書などの財務諸表を通じて株主や金融機関などの外部関係者に経営状況を報告する。
• 管理会計目的
  理想原価と実際原価を比較して差異分析を行い、コスト改善や経営判断に活用する。この管理会計の役割は特に重要で、経営上の重要な意思決定を支える基盤となる。

原価管理は、財務会計と管理会計の双方を適切に活用することで、健全な経営基盤を支える役割を果たします。

製造原価の基本となる要素

原価管理で目的を達成するためには、まず原価を構成する基本要素を理解する必要があります。

製造原価は材料費・労務費・経費の3要素で構成され、それぞれを直接費と間接費に区分して管理することが基本です。製造業でもコストを種類別に分けることで、詳細な原価を把握できます。

要素	内容	直接費	間接費
材料費	製品の主材料や部品などにかかる費用	特定製品に直接使用される材料費	複数製品で共通使用される材料費
労務費	製造作業に従事する人件費	製品製造に直接関わる作業者の人件費	管理者や間接作業者の人件費
経費	光熱費や設備減価償却費などの諸経費	特定製品に直接対応可能な諸経費	工場全体で発生する諸経費

直接費は特定の製品に直接対応できる費用で、間接費は複数の製品で共通発生する費用を指します。両者を正確に区分することで、製品ごとに精度の高い原価を把握でき、適切な価格設定や収益性分析が可能となります。

製造業における原価管理の問題

製造業では、原価管理において以下のような深刻な問題が発生しています。

• 原価構成の不明確さ
  原価率や原価構成比が不明確になりやすいため、材料費・労務費・経費の内訳や適切な比率を把握できない。
• 情報収集の非効率性
  原価管理に必要なデータが各部門に散らばっており、データ収集・分析・報告まで膨大な時間と労力を要する。
• リアルタイム把握の困難さ
  製造現場では日々変動する材料価格や作業時間の影響で、リアルタイムかつ正確なコスト把握が困難です。

結果として、適切な価格設定や収益性の判断が遅れ、競争力の低下や利益機会の損失につながるリスクが高まります。

参考記事：製造業を巡る現状と課題今後の政策の方向性｜経済産業省

製造業の原価管理改善のためのステップ

製造業の原価管理改善は、以下のステップで段階的に進めることが効果的です。

• 標準原価の設定
  「本来かかるべきコスト」の基準値である標準原価を設定。製品や工程ごとに適正なコストの目安を定めることで、原価管理の基礎を作る。
• 差異分析とPDCAサイクルの確立
  設定した標準原価と実際原価を比較し、差異分析を実施。改善点を明確にしたうえでPDCAサイクルを回すことで、継続的な原価低減を実現できる。
• ITソリューションを活用したデータ収集と可視化
  IoTセンサーやERPを導入し、製造工程の稼働状況やエネルギー使用量などをリアルタイムで蓄積する。原価情報の収集を大幅に効率化し、迅速な現状把握を実現できる。

プロセスの見直しとITソリューション活用による一元管理が、原価管理改善のポイントとなります。

関連記事：製造業向けERPとは？導入するメリットやMESとの連携について解説

製造業における原価管理の実践方法

原価管理の実践には、Excelテンプレートやクラウド型原価管理システムの活用が効果的です。小規模ならExcelでも十分ですが、より高度・効率的に管理したい場合はクラウド型システムが適しています。

• 製造業の原価管理のためのエクセル活用
• 製造業向けの原価管理ソフトやアプリの活用

製造業の原価管理のためのエクセル活用

製造業では、Excelテンプレートを活用したコスト管理が広く実践されています。テンプレートは自作しなくても、さまざまなサイトで製造業向けのものが無料配布されているため、すぐに導入できます。

Excelテンプレートを活用する主なメリットは以下の通りです。

• 自動計算機能
  SUM関数やIF関数により原価・粗利・原価率を自動計算し、作業効率が大幅に向上できる。
• 計算ミスの防止
  手作業での計算エラーを防ぎ、データ入力の正確性を確保できる。
• 可視化機能
  グラフ機能で原価推移を直感的に把握できる。
• 導入コストゼロ
  Excelは多くの企業で既に導入済みであるため、追加投資なしで原価管理を開始できる。

例えば、Microsoft公式テンプレートでは、製造業の原価計算等に使えるExcelテンプレートがあり、自動計算や可視化が可能です。
Excelテンプレートを用いて原価計算を自動化することで、製造業の原価管理業務を効率的に進められるようになります。

参考記事：【DLページ】アクティビティのコスト管理｜Microsoft365

製造業向けの原価管理ソフトやアプリの活用

現代では中小企業向けのクラウド型原価管理システムが普及しており、専門的な原価管理を手軽に実現できます。主要な製品とその特徴を以下に解説します。

• PCAクラウド 個別原価会計
  初期費用ゼロ、運用保守を含むSaaS型で、IT専門知識がなくても使いやすい設計。直感的な操作で、高度な原価計算機能を利用可能。
• freee販売
  見積・受注・請求・経費精算まで案件単位で一元管理し、リアルタイムに損益・原価・粗利を可視化。会計システムとの連携にも優れており、財務会計と管理会計の両方を効率的に運用可能。

クラウド型システムの導入により、複数拠点でのデータ共有や外出先でのリアルタイム確認も実現できます。従来のExcel管理では難しい大量データの処理や複雑な原価計算も自動化され、製造業の原価管理業務を大幅に効率化できます。

製造業の原価分析とその活用法

原価管理で得られたデータは、原価分析の材料になります。ここでは、原価分析とその活用法について解説します。

• 製造業の原価分析の方法と重要性
• 製造業の原価分析を活用した戦略的意思決定

製造業の原価分析の方法と重要性

原価分析は、標準原価と実際原価の差異を把握し、材料・労務・経費のどのコスト要素が影響しているかを明確化する手法です。原価の内容を詳しく調べることで、改善点を発見できます。

原価分析は、以下の流れで実施すると良いでしょう。

1. 標準原価を算定
   理想的なコスト基準を設定する。
2. 標準原価と実際原価の差異を分析
   予定と実績のギャップを把握する。
3. 製造工程の見直し
   分析結果に基づく改善策を実行する。

製造コスト削減には、以下のような取り組みが有効です。

• 直接費・間接費の見直し
• 製造工程の改善
• AI・IoTの活用

原価分析を通じて無駄な費用を削減することで、利益率を改善し、結果として企業の収益性向上につながる仕組みづくりを実現できます。

製造業の原価分析を活用した戦略的意思決定

原価分析は戦略的な意思決定の基盤として極めて重要な役割を果たします。データに基づく客観的な判断により、勘に頼らない合理的な経営を可能にします。
原価分析活用により具体的に得られる効果には、以下が挙げられます。

• 製品戦略の最適化
  製品別損益の可視化により、不採算製品の見直しや価格設定の適正化を促進。
• リソース配分の最適化
  収益性の高い製品に経営資源を集中し、効率的な投資判断を実現。
• グループ全体最適化
  グループ連結ベースでの収益性把握・管理会計により、製品・顧客・地域ごとの収益性を把握し、戦略的な販売・価格戦略を支援。

原価分析を活用することで、市場環境の変化に対応した柔軟な経営戦略の立案が可能となります。

原価管理で成果を上げた製造業企業の事例

実際の企業が原価管理をどのように実践し、どのような成果を上げたのかを示す具体的な事例をご紹介します。

• サンコール株式会社｜原価管理システムによる原価管理の高度化
• 株式会社オーカワパン｜原価管理システムで工程別原価と進捗を一元化

サンコール株式会社｜原価管理システムによる原価管理の高度化

サンコール株式会社は、自動車部品や医療機器の精密加工を手がける製造業です。同社の精線部門は各拠点での原価は把握していましたが、全社一元管理ができず、効率的な拠点の判断・見積もり精度の向上・工程の改善に原価情報を活用できない状況でした。

この問題へ対処するため、製造業向け原価管理システムを導入したところ、1品ごとの原価や工程別製造原価をリアルタイムで正確に把握することが可能となりました。

結果として、以下のような成果を実現しています。

• 従来の属人的な原価計算から作業内容に基づく活動基準原価計算へ移行
• 当月売上に対する発生費用や原価の可視化を実現
• 正確な原価情報による見積もり精度の大幅な向上

サンコール株式会社の原価管理システムの導入は、原価管理が単なるコスト削減ではなく経営戦略の高度化につながることを実証した成功例といえます。

参考記事：【事例】1品ごと、工程ごとの正確な原価把握が可能に、見積もり作成などにも応用し競争力の向上へ｜mcframe

株式会社オーカワパン｜原価管理システムで工程別原価と進捗を一元化

株式会社オーカワパンは福井県坂井市に拠点を置く従業員約70名のパン製造企業です。製造現場では手書きで作業記録を管理しており、担当者の記憶や勘に依存するため記入漏れが頻発していました。営業部門は製造状況を把握せず売上を優先するため、薄利多売の状況に陥っていました。

同社は問題解決のため、独自の製造原価管理システムを開発しました。工場にタブレット端末を設置し、作業時間をリアルタイムで収集する仕組みを構築。製品ごとの工程管理を一元化し、入力収集をシステム化、分析や可視化にExcelを活用しました。

システム導入の効果は次の通りです。

• 原価情報を営業部門と共有し、見積もりや価格戦略の判断材料を強化
• 標準作業の認定により品質が向上
• 製造現場の進捗状況を全社で把握できる体制を整備

営業と製造の連携が密になり、「利益を生む」という共通目標に向けて全社のベクトルを統一することができました。

参考記事：粗利を“見える化”し、薄利多売から脱却。自社開発したシステムは外販も【株式会社オーカワパン】｜関西DX推進プラットフォーム事業

製造業の原価管理の未来

製造業の原価管理は、単なるコスト計算を超えた、企業の競争力を左右する重要な経営戦略です。材料費・労務費・経費の正確な把握と継続的な改善により、無駄を削減し利益向上を実現できます。
近年では、デジタル化の進展により原価管理の精度と効率性が飛躍的に向上しており、企業の持続的成長を支える基盤となり得ます。

原価管理をさらに高度化するには、外部の専門家による支援も効果的です。ノムラシステムのDXコンサルティングサービスでは、最新技術を活用した実践的なサポートを提供していますので、ぜひご相談ください。

東京MXの番組で、ノムラシステムコーポレーションが取り上げられました。詳しい内容を知りたい方は、ぜひ下記のYouTube動画をご覧ください。

ノムラシステムコーポレーションの紹介動画

---

お問い合わせはこちら