DX
物流DXとは? 物流業界の課題や具体的な施策、事例を紹介

物流業界では、人手不足や業務の非効率化が深刻化しています。
特に輸送力の確保やドライバーの労働環境改善といった課題に対処するために注目されているのが「物流DX」です。
本記事では、物流DXの基本・目的・課題から、具体的な施策・事例までをわかりやすく解説します。
物流DXとは|デジタル技術で物流の業務やビジネスモデルを変革すること
国土交通省の「総合物流施策大綱」では、物流DXについて以下の通り解説されています。
“機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでのあり方を変革すること”
引用:総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)概要|国土交通省
オペレーションやシステムの改善、働き方改革の実現を通じて、物流におけるビジネスモデルの変革を目指すのが物流DXです。
物流DXに該当する具体的な施策については、たとえば下記が該当します。
- 運送状や収受に関する書面の電子化
- 点呼・配車管理・トラック予約のデジタル化
- データの蓄積・共有・活用による物流の効率化
- AIを活用したオペレーションの効率化
物流DXの主な目的
国土交通省の資料から読み取れる、物流DXの主な目的を3つ解説します。
- ドライバーの労働時間の上限規制に対処するため
- 持続可能な物流を目指すため
- 配送需要の増加へ対処するため
ドライバーの労働時間の上限規制に対処するため
トラックドライバーの労働時間の上限規制により生じる、人手不足問題・物流の停滞に対処するのが物流DXの目的のひとつです。
国土交通省の総合物流施策大綱では、ドライバー不足の問題に対する労働環境整備の一環として、「デジタル機器等の活用による荷待ち時間の削減」などが提唱されています。
たとえば、トラック予約受付システムを使いドライバーが到着時刻を予約することで、荷待ち時間を削減することが可能です。
参考:総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)|国土交通省
持続可能な物流を目指すため
物流DXは、地球環境の持続可能性を確保するためにも重要な取り組みです。
「総合物流施策大綱」では、持続可能な物流ネットワークの実現例として、下記が挙げられています。
- モーダルシフト(環境負荷を減らす輸送手段)の推進
- 航空分野における脱炭素化
- FCVトラック、EVトラックといった次世代自動車の普及促進
- ゼロエミッション船の運行実現
- カーボンニュートラルポート
同資料では脱炭素に向けた具体的なKPI設定や改善報告もされており、たとえばモーダルシフトによる貨物輸送の目標値などを定めることによって、環境負荷の削減を目指しています。
配送需要の増加へ対処するため
日本国内では、コロナ禍を契機としたEC市場の成長や非接触経済の台頭により、配送需要が急速に高まりました。
物流の社会的な価値も再認識され、物流DXの大幅な進展にもつながっています。
ポストコロナの現代においても、新しい生活様式の定着により、インターネット通販の利用拡大傾向は継続すると予想されています。
引き続き配送需要の増加が見込まれるため、デジタル技術活用により、物流の効率化や構造改革といった取り組みを加速させることが重要です。
DX化が求められる物流業界の課題
実際にDXが求められる物流業界の特徴として、どのような課題があるのか詳しく解説します。
- ドライバーが圧倒的に不足している
- 物流プロセスに課題が多い
ドライバーが圧倒的に不足している
トラックドライバー人口は1995年から減少が続いており、物流の維持が困難になりつつある状況です。
国土交通省の資料では、2030年の物流需給ギャップは以下の通り試算されています。
- ドライバー不足により輸送能力の19.5%が不足
- 2024年問題を加味すると34.1%が不足
ドライバーが不足すると、料金割増・運送頻度低下・サービス品質の低下などが懸念されます。
ドライバー不足を解消するためには、リードタイムの延長対応や業務体制・労働環境の改善だけでなく、DXによる物流の仕組みの見直しが必要です。
物流プロセスに課題が多い
物流業界では、荷主優位の商習慣や過剰な多重下請構造、紙ベースのアナログな作業が多く残されており、生産性が低い状態が継続しているのが深刻な課題です。
このような状況を改善するためには、現場の負担となる商習慣や構造の改善に加え、以下のようなDXへの取り組みが重要です。
- 物流業務の標準化による効率化・省力化
- 紙や人力に依存していた業務のデジタル化
大規模事業者はデジタル化に前向きですが、小規模事業者では導入が進みにくい傾向があるため、物流業界全体での意識改革と支援が求められています。
物流DXの施策
物流DXに取り組むのであれば、即効性のある施策から段階的に取り組むことがおすすめです。
- 紙ベース・手作業による業務のデジタル化
- 物流DXツールを活用した生産性向上・業務効率化
- ロボット・ドローン等を活用した機械化・自動化
紙ベース・手作業による業務のデジタル化
物流DXの初動では、紙を用いた業務や手作業といった、アナログ業務のデジタル化から着手するのがおすすめです。
たとえば、以下のような施策が考えられます。
- AI-OCRによる手入力業務のデジタル化
- 電子マニュアル導入による作成業務負荷軽減と宅配業務平準化
- 運行指示書作成業務のデジタル化によるペーパーレス化
これらは業務単位・部署単位のデジタル化施策ではありますが、手軽に取り組める点や、短期間で成果を得られる点がメリットです。
紙媒体をはじめとするアナログ情報をデジタル化することを「デジタイゼーション」ともいいます。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
関連記事:デジタイゼーションやデジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションの違いは?
物流DXツールを活用した生産性向上・業務効率化
物流DXツールを導入すれば、大幅な生産性向上・業務効率化・業務品質の向上などが図れます。
近年では多種多様なツールがリリースされていますが、以下のようなツールが一例です。
- WMS(倉庫管理システム)
複数倉庫の一元管理により、管理効率化・ミス低減 - 点呼支援ロボット
運行管理者の業務負荷軽減・労務管理効率化 - GPS動態管理サービス
リアルタイムでの運行実績確認・ダイヤ検証効率化
ロボット・ドローン等を活用した機械化・自動化
物流DXにおいては、デジタル化だけでなく機械化の余地が大きいことが特徴です。
コストはかかりますが、物流作業の大幅な効率化・自動化・負荷軽減につながるでしょう。
たとえば、以下のようなロボット技術やドローン施策があります。
- 荷下ろしロボット
荷下ろし作業の自動化・労働環境改善 - 自律走行型ロボット
倉庫作業の自動化・業務負荷軽減 - ドローン配送サービス
過疎地域・僻地等への配送効率化・顧客満足度向上
機械の力を借りることで、人員をより付加価値の高い業務に割り当てることも可能となります。
物流DXに成功した企業の事例
物流DXに成功した企業の事例を紹介します。
- 【配送】DXプラットフォームを構築してラストワンマイルの課題を解決した上場企業の事例
- 【倉庫】バース予約・受付システムの導入で待機時間を短縮した企業の事例
【配送】DXプラットフォームを構築してラストワンマイルの課題を解決した上場企業の事例
上場企業である株式会社セブン&アイ・ホールディングスは、グループ各社のECビジネス推進のためラストワンマイルの課題に対処する必要がありました。
課題解決のため、グループ共通の「ラストワンマイルDXプラットフォーム」を構築。
AIコントロールにより、以下の4分野すべての最適化を目指す取り組みです。
- 車両やドライバーの差配
- 配送ルート
- 配送料
- 受取時間・場所
先行テストを実施したエリアでは、配送距離が約40%、車両台数が約45%削減という効果が出ました。
包括的なDX施策が評価され、総合流通グループとして初めてDX銘柄に選定されています。
参考:セブン&アイ経営レポート|株式会社セブン&アイ・ホールディングス
参考:「DX銘柄2021」に初の選定|株式会社セブン&アイ・ホールディングス
【倉庫】バース予約・受付システムの導入で待機時間を短縮した企業の事例
福岡運輸株式会社では、倉庫での積込みや荷下ろし待ち時間が発生し、待機時間や近隣への迷惑といった問題が発生しているのが課題でした。
バース数の制約の範囲内で効率的な運用を図るため、自社開発のバース予約・受付システムを導入するDXを実施。
システムは以下の4機能で構成され、柔軟な組み合わせが可能な仕組みです。
- バース予約
- 受付システム
- バース自動割当
- 乗務員連絡バース誘導
システム導入の結果、バースへの呼出と誘導が効率化され、倉庫周辺の待機トラック削減や貨物整理を実現しました。
物流DXは今後さらに求められる
物流業界は2024年問題を契機に、現在の物流網を維持できるか否かの大きな転換点に立たされています。
物流業界の成長を支える土台として、今後ますますDXの重要度が増すでしょう。
ノムラシステムでは、企業の現状や課題に寄り添った伴走型のDXコンサルティングサービスを提供しています。
自社に合ったDXの戦略や施策に悩んでいる担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。
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