従来の大量生産モデルから、多様な顧客ニーズに柔軟に対応した製品づくりが求められる時代へと変化し、中小製造業を取り巻く環境は日々厳しさを増しています。課題解決の手段として注目されているのが、製造業DXです。

当記事では、製造業DXの基本概念、具体的な進め方、成功事例、活用できる公的支援制度まで詳しく解説します。「何から始めればよいか分からない」という製造業系企業の方は、ぜひ参考にしてください。

製造業におけるDXとは？｜デジタル化を軸に製品・サービス・ビジネスモデルを変革

製造業のDXは、顧客価値向上を目的とした変革の取り組みです。IPA（独立行政法人情報処理推進機構）では、以下のように定義されています。

「顧客価値を高めるため、製造分野で利用されている製造装置や製造工程の監視・制御（OT）などのデジタル化を軸に、ITとの連携により製品やサービス、ビジネスモデルの変革を実現すること」

上記に取り組むことで、顧客満足度向上・生産効率改善・ビジネスチャンス創出・収益力向上・競争優位性獲得など、さまざまな成果が期待できます。

関連記事：DX（デジタルトランスフォーメーション）の定義とは？なぜ必要か、メリット・デメリットを紹介
引用：製造分野DXの理解｜IPA

製造業において発生している問題

中小製造業は現在、事業環境の変化により深刻な問題を抱えています。主な問題として以下の3つが挙げられます。

• 少子高齢化による国内需要の縮小が企業経営を圧迫
• 下請け案件依存による付加価値額の低さにより収益性が悪化
• 生産人口の減少により製造現場で人材不足が発生

上記はそれぞれが個別の問題であると同時に、相互に関連し合いながら中小製造業の成長を阻む大きな要因にもなっています。

今後の事業継続と発展を見据えるうえでは、これらの問題に的確に対応し、持続可能な経営基盤を構築していくことが求められます。

国内中小製造業はDXによる対応が必要

国内中小製造業を取り巻く環境は大きく変化しており、以下のような課題への対応が求められています。

• 大量生産モデルの限界
  スマートファクトリー・スマートマニュファクチャリングを活用し、マスカスタマイゼーションへ移行。
• 下請け依存による収益性の低下
  各社の強みを生かした水平連携を行い、より付加価値の高い市場へ展開。
• 企業単独での製品開発・市場開拓の限界
  中小企業同士が共同でサプライチェーンを構築。

大手製造業ではスマート工場の導入が進んでいる一方で、中小製造業ではDXの取り組みが十分に進んでいません。
日本の製造業全体が今後も発展していくためには、中小企業においてもDXを推進することが必要です。

製造業が目指すべきDXの姿

IPAの資料「製造分野DXの理解」では、製造業が目指す状態として以下3つが示されています。

• スマートファクトリー｜生産プロセス変革
• スマートプロダクト｜製品変革
• スマートサービス｜ビジネスモデル変革

スマートファクトリーを最初に目指しつつ、段階的にスマートプロダクト・スマートサービスを強化していく流れとなります。

スマートファクトリー｜プロセスを最適化して生産性・品質を向上

スマートファクトリーとは、センサーやIoTデバイスを活用して生産工程の可視化やデータ活用を図り、生産全体のプロセスを最適化することで、人材不足の課題解消を目指す取り組みです。

以下のような状態を目指し、市場競争力の向上を図ります。

• ペーパーレス生産による紙ベース管理からの脱却
• 個人に依存しない標準化された生産プロセスの構築
• 場所に依存しない生産による複数拠点の一元管理
• 短納期・高品質・顧客要求への対応を実現

これらのデジタル技術を活用した生産プロセスの最適化により、抜本的な効率化が期待できます。

スマートプロダクト｜デジタル技術との融合による競争力強化

スマートプロダクトは、強みを持つ中核技術とデジタル技術を融合させ、付加価値向上・開発力向上により市場での競争力を強化する取り組みです。

• 製品に搭載されたセンサーから収集した各種データを基に顧客価値を向上
• データ分析による機能強化や新製品開発を実現

長年培ってきた技術力やノウハウをデジタル技術と組み合わせることで、より高い価値を創出できます。

スマートサービス｜新たなビジネスモデルを創造して顧客体験を提供

スマートサービスは、モノ売りから顧客体験を優先するコトづくりにつなげ、以下のような新たなビジネスモデルを構築する取り組みです。

• サービスビジネスとして製品の保守・メンテナンスを継続的に提供
• サブスクリプションモデルで製品利用権を月額制で提供
• 蓄積したデータや知見を活用したコンサルビジネスを展開

製品販売に終始せず、顧客と継続的な関係性を築くことで、新たな収益源を創出します。

製造分野におけるDX推進ステップ

IPAの資料では、以下のような企業が段階的にDXを推進するための指針を示しています。

1. 「DX推進指標」で全体方針を策定
   自己診断フォーマット（*1）、経営層と現場が現状と課題を共通認識。
2. 製造分野DX推進ガイドで理解を深める
   抽象的なDXを実際の取り組みへと具体化。
3. 目指す姿を決める
   自社のDX理想像と目標を明確化。
4. 現状を把握する
   業務プロセス・技術・組織体制を客観的に分析。
5. 課題を明確化する
   理想と現状のギャップから課題を抽出。
6. 計画・実行
   課題に基づく実行計画を立て、段階的に取り組む。

各ステップを着実に進めることで、製造業のDXを効果的に推進できます。

関連記事：DXの推進とは？ 取り組みのステップを解説
関連記事：DX推進に失敗しないために知っておきたい課題と対策
参考：DX推進指標｜IPA
参考：中小規模製造業者の製造分野におけるデジタルトランスフォーメーション（DX）推進のためのガイド｜IPA
*1：DX推進状況の自己評価をサポートするためのツール

中小企業向け公的補助金・支援制度一覧

中小企業向けのDX推進に活用できる公的補助金・支援制度として、経済産業省の「IT導入補助金」や中小企業庁の「ものづくり補助金」が実施されています。

• IT導入補助金
  中小企業・小規模事業者の課題に応じたITツール導入費用を支援する制度。最大450万円（補助率1/2〜2/3）の補助を受けられる。
• ものづくり補助金
  新製品・サービス開発・生産プロセス改善のための設備投資が対象の補助金。製品・サービス高付加価値化枠で補助上限750万円〜2,500万円、海外事業実施による国内生産性向上では3,000万円の補助を受けられる。

DX推進の後押しとなるため、積極的な活用をおすすめします。

製造業のDXを支えるツール

製造業のDXを推進するには、以下のようなデジタルツールの導入が効果的です。

■全体戦略で使われるツール

ツール名	主な機能・役割
ERP	企業全体のリソースを統合的に管理するシステム（統合資源管理）。
MBSE	モデルベースシステムズエンジニアリングの略。モデルを用いてエンジニアリングを行う手法。

■現場マネジメントで使われるツール

ツール名	主な機能・役割
PLM	製品・設計・製品ライフサイクルの管理を行うシステム。
MES	製造管理、生産活動の管理・監視を行うためのシステム。

■現場で使われるツール

ツール名	主な機能・役割
CAD	図面作成・設計効率化・精度向上などの設計支援のためのツール。
PLC	機器の自動制御・センサーとの連携・安全システムの構築を行う専用コンピュータ。
コネクテッドロボット	遠隔監視・制御・自動化・省人化・データ収集・分析を行うネットワークに接続されたロボット。

工場全体の最適化やデジタル化の効果を最大化するには、経営課題の特定や全体最適の視点から導入計画を立てることが重要です。

中小製造業のDX成功事例

実際にDXで大きな変化を遂げた2社の取り組みから、成功の秘訣を探ってみましょう。

関連記事：DX推進の成功事例11選 ｜最新の成功事例やDX化のポイントも解説

三共電機株式会社｜製造業DXで業務効率化と働き方改革を実現

三共電機株式会社は、制御盤製造において深刻な課題を抱えていました。

工程管理や部品発注が属人化し、アナログ作業による非効率が発生
管理業務の煩雑さや棚卸作業の負荷により、長時間労働が常態化
少子高齢化や人手不足に備え、従業員の年収向上と有給取得促進が急務に

課題解決のため、製造業DXにより業務効率化と働き方改革を同時に推進しました。

工程管理から労務管理まで、社長自ら必要なアプリを内製
クラウド・AIで業務データを一元化し、QRコードと連動した進捗管理を導入
センサー設置で工場内電力を可視化し、快適で省エネな環境を整備

結果として、業務の90％を自動化、残業時間を44％削減、有給取得率82.2％を達成。効率化と働きやすさを実現し、売上も1.56倍に成長しました。

参考：【事例】社長自らアプリ開発で、業務効率化と働き方改革！中小製造業DXで、目指せ年収700万！｜デジタル事例データベース

株式会社樋口製作所｜製造業DX推進により企業文化変革と競争力強化を実現

株式会社樋口製作所は、製造業特有の深刻な課題に直面していました。

熟練技術者のノウハウが属人化し、若手への技術伝承が難化
デジタル化が遅れ、顧客ニーズの多様化に対応できない
入力・集計作業が手作業中心で、業務負担が増しミスが増加

同社は、IoTとAIを駆使した独自システムで課題の解決に取り組みました。

照合システムにより特定条件下で設備が稼働する仕組みを構築
技術伝承システムで図面から特徴を抽出し、熟練者の暗黙知を形式知化
過去データのAI分析で現場作業に最適な指示・アドバイスを提供

結果として生産性20％向上、品質ロス40％削減を達成。若手の即戦力化とノウハウ継承の仕組み化を実現しました。

参考：【事例】DX推進による企業文化の変革と競争力強化｜デジタル事例データベース

公的支援と専門家の知見を活用し、製造業DXを成功に導こう

製造業DXは、多くの課題に直面する企業にとって、もはや避けて通れない取り組みとなっています。既に成果を上げている企業も多数存在するため、一歩を踏み出す勇気と適切な支援の活用が重要です。

ノムラシステムでは、企業の現状に寄り添ったコンサルティングを提供しています。製造業DXの推進を検討中の方は、お気軽にご相談ください。

東京MXの番組で、ノムラシステムコーポレーションが取り上げられました。詳しい内容を知りたい方は、ぜひ下記のYouTube動画をご覧ください。

ノムラシステムコーポレーションの紹介動画

---

お問い合わせはこちら