チェンジマネジメントは、組織が変革に直面した場合に、混乱や抵抗を最小限に抑えながら新しい体制へスムーズに移行するための取り組みです。複数のフレームワークが存在し、状況に合わせて選び活用することが成果につながります。

本記事では代表的なフレームワークの特徴や実践のポイントのほか、成功事例も紹介します。

チェンジマネジメントとは｜組織変革を効果的に進める手法

チェンジマネジメントとは、組織が現状から将来の望ましい姿へ移行する際に生じる混乱や抵抗を抑えつつ、変革を計画的に推進する枠組みを指します。

制度や業務フロー、組織文化の変更において、人の心理やスキル、価値観といった「人的側面」への働きかけが欠かせません。たとえば、新システムを導入する場面では、技術的な準備に加えて、業務変更への理解を深める説明や研修を通じて不安を解消し、前向きに受け入れられる環境づくりが求められます。

変革を成功させるには、こうしたサポートが大切です。近年はDXの進展により変化への対応力が重視され、チェンジマネジメントを実務に取り入れる企業が増加しています。

チェンジマネジメントの代表的なフレームワーク３選

チェンジマネジメントには、さまざまなフレームワークが存在します。代表的な手法は以下の3つです。

• レヴィンの3段階モデル
• コッターの8段階の変革プロセス
• ADKARモデル

ここでは、それぞれの特徴を解説します。

チェンジマネジメントフレームの主なフレームワークを3つ紹介する

レヴィンの３段階モデル

チェンジマネジメントの草分け的モデルとして知られるフレームワークが、社会心理学者クルト・レヴィンの「3段階モデル」です。組織が変化に適応する過程を以下の3つに分けて説明しています。

• 凍結解除（Unfreezing）
• 移動（Moving）
• 再凍結（Freezing）

凍結解除は、現状維持を崩し、なぜ変革が必要かを共有する段階です。
移動のフェーズでは、新しい行動様式や仕組みを導入し、変化へと導きます。
再凍結は、新しいやり方を定着させ、組織全体を安定した状態へ戻すプロセスです。

「準備・実行・定着」というシンプルな流れで変革を理解できる点が特徴であり、今も基盤的理論として活用されています。

コッターの８段階の変革プロセス

ハーバード大学のジョン・P・コッターが提唱した「8段階の変革プロセス」も、組織変革における代表的なフレームワークです。

具体的なプロセスは以下の表のとおりです。

ステップ	内容
1.危機意識を高める	現状を把握したうえで変革の必要性を強く訴え、全員に危機感を共有する
2.変革推進に向けて連帯を図る	推進リーダーやチームを編成し、協力体制を築く
3.ビジョンと戦略を策定する	将来像と変革達成のための戦略を明確にする
4.ビジョンを周知徹底する	さまざまな手段でビジョンや戦略を全社に発信し、浸透させる
5.社員をサポートし自発を促す	障害を取り除き、社員が主体的に行動できるようサポートする
6.短期的成果を上げるための計画を進める	早期に成果を可視化し、意欲を高める
7.成果を踏まえて改善し変革をさらに進める	成果を分析し、次の変革を拡大・加速する
8.新たな方法を定着させる	変革を企業文化として根付かせ、持続可能な取り組みにする

このように、段階的に変革を進めるため、社員の理解と納得を得やすい点が魅力です。一方で、変化のスピードが早い現代では時間がかかる側面もあります。こうした変化に対応するには、コッターが提案した「デュアルシステム（二重構造）」を採用して、各ステップを並行して進める方法も効果的です。

ADKARモデル

ADKARモデルは、世界中で広く採用されるチェンジマネジメント資格「Prosci®」の基礎となる枠組みです。組織ではなく、各個人の変革に必要な要素を提案しています。具体的には、以下の5つです。

• Awareness(認知)
• Desire(欲求)
• Knowledge(知識)、
• Ability(能力)
• Reinforcement(定着)

まず、社員には変革の必要性の理解を促して参加意欲を高めます。そのうえで、必要な知識と行動できる能力を育成し、最終的に新たな習慣を持続させる流れです。

組織変革には、一人ひとりが納得し、自ら行動を変えることが重要です。このモデルの活用により、社員一人ひとりを巻き込みながら組織全体の変革推進が期待できます。

チェンジマネジメントを成功させるための主なポイント

チェンジマネジメントを成功させるポイントは主に以下の4つです。

• 変革の必要性を周知する
• 変革に向けたビジョン・戦略を明確化する
• ステークホルダーを巻き込む仕組みを構築する
• 継続的に取り組み定着させる

ここでは、それぞれのポイントを解説します。

変革の必要性を周知する

チェンジマネジメントを推進する第一歩は、変革の必要性を全社員に理解させることです。背景が伝わっていなければ社員の意識が変わらず、期待する成果が得られない可能性があります。

とくに経営層が早い段階からメッセージを発信し、組織全体で共通認識を形成する姿勢が欠かせません。たとえば、経営会議やタウンホールミーティングなどを通じて背景や目的を明確に伝えると、社員も自分事として変革に向き合いやすくなります。

変革に向けたビジョン・戦略を明確化する

変革を進めるうえでは、全社で共有できるビジョンと戦略の明確化が不可欠です。経営層は、社員が関心を持てるようにわかりやすく伝え、印象付ける必要があります。

ゴールが不明確なままでは行動につながらず、効果的な変革は期待できません。ビジョンと戦略を明示することで、変革後の姿を具体的にイメージでき、社員の参画意欲も向上するでしょう。​​たとえば、ワークショップやオンラインセッションを通じて、推進チームと直接意見交換できる場を設けると、社員の理解と共感を深めやすくなります。

ステークホルダーを巻き込む仕組みを構築する

組織変革は現場に直結する取り組みであり、社員だけでなく顧客や取引先といったステークホルダーの意見も取り入れることが不可欠です。関係者の声を無視した施策は形骸化しやすく、抵抗や不信感を生む要因にもなりかねません。とくに、変革に大きな影響を持つステークホルダーに対しては、適切なサポートを行う必要があります。

たとえば、意見交換の場を設けたりアンケートを実施したりして、多様な立場からフィードバックを得るのもよいでしょう。これらを施策に反映することで、社員全体が変革を主体的に捉えやすくなり、顧客満足度向上にもつながります。

継続的に取り組み定着させる

変革を一過性で終わらせないためには、定期的なモニタリングと改善が不可欠です。改革は長期にわたることが多く、成果が見えるまで数年かかるケースも珍しくありません。そのような状況でも、フレームワークの効果を検証し、改善を繰り返すことで組織への定着を後押しできます。

また、成果や進捗の可視化・共有は、取り組みの定着状況を客観的に把握するのに有効です。こうしたPDCAサイクルを継続的に回す姿勢が、変革を持続可能な仕組みとして確立し、組織の成長を引き出す原動力となります。

フレームワークの導入でチェンジマネジメントに成功した具体例

フレームワークの導入でチェンジマネジメントに成功した事例を2つ紹介します。

• 富士フイルムホールディングス株式会社｜コッターモデル活用で組織改革と売上高1兆円達成
• 株式会社荏原製作所｜ADKARにより社員が自分ごととして変革を実現

富士フイルムホールディングス株式会社｜コッターモデル活用で組織改革と売上高1兆円達成

富士フイルムホールディングスは、デジタル化の進展により主力だった写真感光材料事業が急速に縮小したほか、デジタルカメラ市場の競争激化に直面しました。この危機を乗り越えるために導入したフレームワークが、コッターの8段階プロセスです。

特徴的な取り組みとして、社員を精神的に支援し自発的な行動を促す「＋STORY（プラスストーリー）」を実践しました。個々の価値観を尊重しながら変革を浸透させた結果、従業員エンゲージメントが向上し、積極的に挑戦する人材が着実に増えています。

こうした前向きな行動変容により、事業の多角化が進展し、化粧品・医薬品を中心とするヘルスケア分野で大きな成果を上げました。2025年には売上高1兆円を実現しており、これは当初の目標より2年前倒しで達成したことになります。

株式会社荏原製作所｜ADKARにより社員が自分ごととして変革を実現

荏原製作所は、DX推進に伴いデジタル活用を進めたものの、システム導入が先行し社員の理解が追いつかないという問題を抱えていました。この状況を打開するため、導入したフレームワークがADKARモデルです。

具体的には、経営層・プロジェクトマネージャー・チェンジマネジメントチームが参加するワークショップを開催しています。直接対話を通じて導入の背景や目的を共有したことで、社員の意識改革が進み、変革の必要性に対する理解が深まりました。

その結果、システム導入の意義が浸透し、17カ国以上で業務の標準化を実現しています。

チェンジマネジメントは組織改革を成功に導く実践的手段

チェンジマネジメントは、組織改革を成功に導くために欠かせない実践的な手法です。変革の状況に応じた適切なフレームワークの選定により、推進の効果を高められます。自社に合った方法を理解し、全社的な意識改革と継続的な実行を行うことが、成果を最大化するポイントです。

チェンジマネジメントにお悩みの方は、ノムラコーポレーションまでお気軽にご相談ください。

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