コンサルタント記事
AIに任せる分析、人が担う判断|SAPのデータ活用を現場に根付かせるポイント
話者:大熊 千穂
所属:ノムラシステムコーポレーション PMOコンサルティング事業部 BIチーム
役割:シニアマネージャー
「DXの現場」では、ノムラシステムコーポレーションのコンサルタントが、実際のプロジェクト経験をもとに、DXの現場で求められる考え方や仕事の進め方をお伝えします。
今回のテーマは、AIが広がる時代のデータ分析です。
私はPMOコンサルティング事業部のBIチームに所属し、SAP BWやBPCを中心に、データ分析基盤の設計・開発から保守運用まで携わってきました。
本記事では、生成AIによって変わるデータ分析の形、AI活用を支えるデータ整備と基盤の変化、分析結果を行動につなげる人の役割、ツールを現場に根付かせるポイントをお伝えします。
データ分析は、目的を見失うと使われなくなる
2015年に入社し、最初の約2年間はシステム運用やヘルプデスク、定例作業などを担当しました。その後はSAP BWの保守運用に約3年間携わり、トラブル対応に加えて、追加開発に伴う要件整理や設計・開発も経験しています。以降は導入案件へ移り、設計・開発・テストから本番稼働まで担当しました。稼働後もプロジェクトに残り、BPCの保守運用支援と追加開発の設計・開発に携わっていました。
設計と開発の両方を経験する中で感じたのは、機能を実装することだけでなく、「なぜ必要なのか」を設計に反映することの重要性です。これは、AIを使ったデータ分析においても変わりません。
そこで設計段階では、機能の目的と要件、実装内容を整理し、設計書に明確に残すことを心がけてきました。別の担当者が開発する場合でも意図が伝わり、要件とのずれが生じにくくなると考えています。
分析軸を探す時代から、AIに問いかける時代へ
これまでのデータ分析では、ピボットテーブルのようなレポートで分析軸を切り替えながら、売上の増減要因を担当者が探る方法が中心でした。
SAPには「Joule」という生成AIがあり、自然な言葉で問いかけると回答を得られる仕組みがあります。今後はこうしたAIを活用し、担当者が分析軸を切り替えながら原因を探すのではなく、売上の増減要因などを自然な言葉で確認できるようになると考えています。
SAPの最新動向を見る限り、今後は会計や在庫などのデータを個別に確認するだけでなく、AIが業務データ同士の関係や背景を踏まえ、増減の要因やリスクを示す分析へ進んでいくと捉えています。
ただし、自然な言葉で質問できるようになったからといって、AIが自動的に正しい分析結果を返してくれるわけではありません。その前提となるのが、分析に使うデータの品質です。
AIによる分析の出発点は、データをそろえること
AIを活用するには、分析の前提となるデータを整える必要があります。このデータクレンジングは、今後も人が担うべき重要な作業です。
具体的には、システムごとに異なる商品コードやデータ形式、単位などを洗い出し、共通のルールにそろえます。表記ゆれや重複を確認し、データの状態を整えることも、データクレンジングに含まれます。
例えば、同じ商品をあるシステムでは5桁、別のシステムでは7桁のコードで管理している場合は、コード同士の対応関係を整理するか、共通のコードに統一します。データの意味や形式をそろえることで、AIが複数のシステムを横断して分析しやすくなります。
データの中身を整えるだけでなく、必要なデータへどのようにアクセスするかという基盤のあり方も変わりつつあります。
データを集める仕組みも、複製から共有へ変わる

従来のSAP BWを使った構成では、業務システムのデータを夜間バッチで分析基盤へ転送・保存し、そのデータをBIツールから参照する方法が多く採用されてきました。
一方、現在SAPが推進している考え方の一つが、元データを必要以上に複製せず、必要なデータを連携先から共有・参照する「ゼロコピー連携」です。
SAPでは、このようなデータ連携を外部のデータ基盤まで広げる構想が具体化しています。その中心となるのが、SAP Business Data Cloudです。
SAP Business Data Cloudが、社内外のデータをつなぐ
SAP Business Data Cloud(BDC)は、SAPの業務データと外部のデータを組み合わせ、分析やAI活用につなげるための製品群です。
すでにデータレイクなどを利用している企業にとっては、既存のデータを生かしながら、SAPのデータも分析に利用できる点が特徴です。
お客様からもBDCへの関心を感じますが、導入には費用がかかり、プロジェクトも大規模になりやすいため、関心があっても動き出しにくいという話を聞くことがあります。
このように、AIが分析に利用できるデータの範囲は広がっています。しかし、データが増え、分析が高度になっても、それだけで業務が改善されるわけではありません。
AIが分析を支え、人が次の行動を決める
実績データが蓄積されるほど、将来の売上予測も立てやすくなります。これまでのように問題が起きてから対応するだけでなく、「今後、発生しうるリスクに対して、先に手を打つ」という判断もしやすくなると考えています。
AIは、データに基づく予測や分析を通じて、人が判断するための情報を提示するようになっています。一方、分析結果や提案が妥当かを確認し、事業への影響を踏まえて最終的な方針を決める役割は、引き続き人が担っていく必要があります。
AI活用の成否は、導入後の現場定着で決まる
AI活用では、分析精度だけでなく、導入後も現場で使われ続ける状態をつくることが重要です。
運用保守の現場では、特定の人しか使っていないレポートや、ほとんど閲覧されず形骸化したレポートを目にすることがあります。BIツールやAIは、導入自体が目的になると、現場で十分に活用されない可能性があります。
導入したツールを活用してもらうには、「どの業務をどのように改善したいのか」を明確にし、その目的をプロジェクト関係者だけでなく、実際の利用者にも共有する必要があります。さらに、利用者のITスキルに応じた支援も欠かせません。マニュアルの配布に加え、実際の画面を見せながら操作方法を説明したプロジェクトもありました。具体的な使い方を伝えることで、新しいツールに不慣れな方も利用しやすくなります。
生成AIの業務活用は、まだ発展の途中です。今後はシステムを作って引き渡すだけでなく、お客様がAIで実現したいことを整理し、必要なデータや基盤を整える段階から支援したいと考えています。
AIが分析を支援し、人が判断して行動に移す。その流れを現場に定着させることが、これからのデータ活用支援に求められる役割です。
